ビビッド・ミッション、お任せを
         〜789女子高生シリーズ
 


       




劇的な出会い方をした、何ともエキセントリックな女の子。
ろくに言葉も交わさぬまま、
護衛の方々だろう大人たちに、力づくという強引さで連れ戻されたその様が、
あまりに気の毒だったからというのが気になって。
もうちょっと何とかならぬのか、せめてお話が聞きたかったなぁと、
憤懣やる方なしとしていたお嬢様たちの元へ、
こそりと届いた長い長いメールには。
向こうの彼女の側からも、ワラにもすがりたいとしていた心情だったこと、
ひしひしと伝えてくるよな、驚きの内容が綴られていたのだった。



     ***


お嬢様(皇女)と彼女とは、
万が一の危険はおろか、余計な騒音さえ届かぬようにとの堅牢さで、
護衛の大人たちに厳重に取り巻かれたままに日本へ無事到着し。
提携を予定していたお相手側からの歓待に応じて、
あちこちへ見学やレセプションにと招かれる、
それはそれは忙しい日々を過ごしていたのだが。
その間のこととして、
彼女らにも知らされてはなかった策が並行して講じられていたことが、
選りにもよってお嬢様ご本人のお耳へ届いた。
こっそり手招きされて、
きっと大変驚くことだろうが、すまぬが声はだすなよと前置かれ、
ホノカがお嬢様から直々に聞かされたのが、

 『お前の妹が、反対派の手へ落ちたらしい。』



     ***


まだまだ幼いながら、
その身分のせいもあってか 桁外れに才気煥発な皇女様は、
独自の情報収集法というのにも長けておられたようで。
なのでと、周囲の皆様も殊更厳重に“雑音”を遠ざけたのだろうが、
それが却って“何かあるな”と皇女へ嗅ぎ取らせてしまったらしい。
万が一にも航空機や何やへ乗っている移動の間に害されては目も当てられぬと、
自分の出国とからませるようにして、
ダミーというか影武者というか、
王家の常識、背格好の似た偽者を抱えておられたその少女もまた、
それらしい付き添いを仕立て、
華々しくも日本へ送り出していたのだそうで。

 「…それが、ホノカさんの妹さんだった?」
 「そうみたい。」

滅私奉公が基本という、ある意味おっかない考え方が、
されど、今時でも堂々とまかり通っていて不思議はない国情なようだし、
ましてや、彼女の一家はそれを代々通して来たお家。

 「正義感の強い皇女様だそうで、
  だからこそ彼女らへも秘密裏に運ばれたことだったのが、
  悪い意味で大当たりしたようで。」

本物は無事だが、そんな事実が判っては黙ってはおれぬ人。
だがだが、

 [とは言っても、此処は外国。
  勝手は許されませぬし侭も利きませぬ。]

それでも皇女様は、
自分の代わりに 自分と同じくらいまだ幼い少女が、
それはそれは怖い目に遭うなんて許せないとお怒りになり。
さりとて、お務めの大事さも重々判っておいでだったので、
周囲の大人の隋臣の方々には一切悟らせぬまま、
自分たちだけで何とかしようと仰せになったのだとか。

 [お嬢様がそんな事実を知ったのは、
  情報を集める為にと閲覧してらした
  幾つかのチャットや掲示板経由というちょっと考えられない逆探知で、
  つぶやき専用にしてらした携帯端末に届いた
  密告メールからだったのですが。]

   ……………………。

 「………って、それって随分と怪しくない?」

飲み込みにくいのは たどたどしい日本語のせいかな、
いやいや ちょっと待ってくださいよ、
それって…だから、こういう意味かなぁという、
頭の中での“翻訳&再生作業”を済ませてから。
今度は咀嚼のためにか、微妙な一刻を置いてから、
あらためて、やっぱり怪しいぞそれと、
最初に受けた感触が間違いないこと、噛みしめ直した七郎次だったのへ、

 「ソースとしての信憑性もですが、手管も大概ですよね。」

さすがに平八も肩をすくめたのだけれど。
ただ、

 「……こんなことするのって。」

久蔵だけは…さっきまでのやや困惑げなお顔ではなく、
真剣本気の冴えたお顔になって、タブレットを睨み据えており。
そんな様子の彼女なのをおやと意外そうに見やっているうち、

  はたと、

七郎次の思考の流れが とある一点へ勢いよく絞られる。

 「あ…そっか、それって。」
 「こういう外連(けれん)を軽々とやりそうですよね、例の人。」

ホノカを拉致しようとしていた陣営に、何故だろうか交ざっていた顔見知り。
彼女らが巻き込まれた、若しくは首を突っ込んだあれやこれやの端々でも、
気になるお顔の出しようをして来たあのお人が、
今もまた関わっているのは、姿を見たほどに もはや明白だったので。
その点は…七郎次のような過去の記憶がなくとも、
久蔵のように じかに接していなくとも、
平八にも拾える“引っ掛かり”ではあったらしくて。

 「と言いますか。
  皇女の影武者に仕立てられたホノカさんの妹さんを拉致した一味、
  すなわち、そもそもは皇女をこそ拉致しようとしていた一味の中へと
  紛れている彼だってことになりますが。」

そんな人物がいようとは知らない…のが、むしろ当たり前の状況下。
皇女はホノカへ、その密告を知らせての それから、

 [護衛の方々へも、お嬢様を誘拐したと、
  交渉を諦めるのなら返してやろうという脅迫文が届いていたようです。
  それを見たためか、予定されていた見学はことごとく削られ、
  私たちは滞在先へ押し込められ、
  一番の目的だった
  総督府の担当者との会見のみを待たされておりましたが。]

相手が誘拐したのが、だが実は影武者だったこと、
他でもない相手へ露見しては不味いからだろう。但し、

 「非情な言い方をすれば、
  護衛の関係者が恐れているのは、
  皇女が再び狙われないように、であって。」

  間違えられているお嬢さんが偽者と判れば、
  価値なしと見なされ、最悪 口封じさえされかねないことをこそ、

 「皇女やホノカさんは案じているのでしょうね。」

ヤだな、どっちの理屈も判りますアタシと、
どこか辛そうに口唇を咬む白百合さんであり。

 “だって、これが勘兵衛様の身に降りかかったことだったら?”

  ……そこの人、ヲトメの純情へコケないように。(苦笑)

そういえばと、
かつての“前世”にそういう策を取ったこと結構あったのを思い出す。
まさかに、仮装して影武者になったという芝居がかったことじゃなく、
総指揮を執っていた司令官の艦を逃がすため、
こっちこそが総司令の艦ぞと見せかけるオトリの役、
巧みにこなしたことが多々あった勘兵衛で。
艦の進退という操縦指令や、
周辺を固めている護衛の機巧兵らの運営が絶妙だったことから、
あれこそは総司令官の搭乗する艦ぞと、敵の誰もが疑わなかった。
だがだが、こっちとしては、
傲岸なばかりで一向に役に立たず、
結局は敗走を余儀なくされたような能無し総指令よりも、
勘兵衛の身が害されることのほうが心配で心配で……。

 「どうしたんですか、シチさん。」
 「???」

 「あ。いやいや、何でもありません。//////」

我に返ると、そうと言いつつ、
だがだが…頬に手を当て、あらぬ方を見やっておれば。
ははぁんと察しがつくのは、
もはや 平八のみならず久蔵殿にも簡単なこととなりつつあるのも、
まま、この際は置いといて。

 [お嬢様に似た人が攫われたことを知っていると、
  その密告の人は言っていて。
  どこへ隠れているかを教えても良いとまで言って来ました。]

 「う…。」
 「それって…。」

メールへと綴られる“話の流れ”を追ううち、
何とはなく“既視感”のようなものを覚えるお嬢様たちだったのは、
この際は良い傾向だと見るべきか。
そんな素性のはっきりしないメールに
誘い出されちゃいかんと思ったのは、だがだが。
いつもの自分たちの無鉄砲へ、
性懲りもなく…と渋面を作ってしまわれる、
勘兵衛や兵庫や五郎兵衛と同じなのではあるまいか。
そうか、彼らはこんな風にハラハラしているんだなぁと、
三人共がほぼ同じように感じたからだろう。
ふと見回したお友達が同じように伺うような顔なのへ、
てへへ…と大人しめの苦笑をこぼし、

 「アタシたちが“危ないことをして”なんて思うのは僭越ですかね。」
 「まま、それが常識ということで。」
 「………。(頷、頷)」

ともあれ、
謎の少女とその不可解な行動への、一通りの見通しが立ったようで。
納得と共に、はぁあと肩から力が抜けもした三人娘。

 「強引な引き取り方をしたあのおじ様がたも、
  彼女を案じていればこそだったと。」

 「うん。」
 「そこは見識を改めねば、ですよね。」

彼女が何をしに こそりと出掛けたか、
何か皇女から託されたんだろなってところも当然気づいてて、
ぎりぎりまでは邪魔しないでおいてくれたのかもだね。

 「もっとも、間に立ってた立場らしかった、あの にやけた青二才は、
  事情も知らずだったらしいから、却って間抜けさが際立っちゃいましたが。」

 「そうだよねぇ。」
 「………。(頷、頷、頷)」

今になって 大人には大人なりの気遣いもあると知り、
しみじみと身につまされた…にしては、
相変わらず言いたい放題です、お嬢様がた。(笑)
ともあれ、

 その密告者とやら、恐らくは良親本人だろう…と判るのだけれど。

 「電話やメールでは逆探知されかねない、
  そうはならない“伝令役”がほしいということで、
  お身内の誰か、口の堅い、機転の利く人を寄越してはくれまいかと
  その怪しい一味の人から言われたという伝言だった…ったって。」

 「鵜呑みにしちゃいますかね、
  伝聞って時点でも怪しいというか曖昧な話だってのに。」

そう、たとえこれが拉致一味からの罠…や 呼びかけではなく、
第三者からの密告だったとしても、だ。
信憑性や正確性に欠ける話だと、
まずは慎重にかからねばならぬことだってのに、

  肝心要めな皇女が、打てば響くという反応を示してどうするか。

あの現場にも実は潜んでいて、
まずは見守っていたという周囲の大人たちの対応も。
こうなってくると…強引どころか、
むしろ甘やかし過ぎなんでないかいとさえ思えて来たほどであり。

 「アタシらに言われてちゃあ世話はないってもんですよ。」
 「まったくです。」
 「………。(頷、頷、頷)」

だから、それをあなたがたが言わない。(う〜ん)

 「アグレッシブルですよね。」
 「でもまあ、人一人の命が懸かってることですし。」

ホノカさんが、
これまた素性の判らぬ相手であるこちらへ
こんなメールを送って来たのも、
そういう、まだ蓄積の足りぬ年頃ならではの、
詰めの甘さがあってのことかも知れぬ。

 「それと。
  ああまで派手に彼女を収容しちゃたからには、
  護衛の方々も腹をくくったのかもしれない。」

 「…それって。」

身代わりの少女への伝手はもはや無くなったものとし、
ホノカさんももう二度と町へ出るような真似なぞ出来なくされるし、
その上で、誘拐事件があったなぞ知らぬ存ぜぬ…で通すこととしたのなら。

 「…オレのせいかな。」
 「久蔵殿。」

ホノカが連れ去られるのを護衛の大人らが追うことで、
攫われたもう一人の少女を救い出そうという、
あれがそういう取引であったのなら。
割り込んだ自分たちという不確定要素のせいで、
修復不可能な“ご破算”になったということだろうかと。
ふわふかな綿毛のような金の前髪の陰にて伏目がちとなり、
意気消沈してのこと、打ち沈んでしまわれるのへ、

 「何を言ってますか。
  あんな不埒な真似、
  どんな背景があったって、
  看過されていいことじゃないに決まってます。」

しっかりせよと覇気ごと吹き込みたいか、
平八が久蔵の肩を掴んでまでして ゆさりと揺すぶる。

 「か弱い女性と大人の男性二人という力関係にしても、
  気を失ってたって状況も、侭にさせちゃあ いけないことでしょ?」

周囲に見守り班があっての、故意に泳がせてたって言うのなら、
彼女の身の安全を確保するという大前提があったはず。

 「あっさりと私たちが気がついたような、半端をしたのが悪いってもんで。」

そうよそうよ、中途半端がいけないの。
遠足は家へ帰るまでが遠足で、見守るなら最後まで。
逃げを打った相手の色々、きっちり掴んでの追跡をしてなきゃいけなくて。

 「クリーニングの回収車に見せてたバンは、やはり盗難車でしたが。」
 「……が?」
 「逃走経路より、どういう経路でそこへ来たかを
  Nシステムやあちこちの防犯カメラを覗いて逆探知させていただきまして。」

揃えた指先で口許を押さえ、ふふふと笑ったヘイハチへ、
うんうんと力強く頷いた久蔵と、身を乗り出した七郎次と来れば、

  ちっとは懲りたんじゃなかったんかい、あんたたち。(う〜ん)









     ◇◇◇



ただでさえ、非力な少女を拉致したというのが非業の罪状。
せめて、命まで取りたいのではない…という方針を貫かなくては、
露見したおり、どちらが極悪非道かは明白、
国のためだの何のと言い通しても、誰も聞く耳を持ちますまいと。
合議のたび、緩急をつけてのこと、
強行にあるいは柔軟に、そういう説をしきりと持ちかけていたので、
今のところは最悪の選択を処断する彼らでもなさそうで。

 “人道云々というよりも、勝手の利かない他国だからだろうけれど。”

彼らへと融通を利かせてくれる国への義理立てから、
日本との友好条約を結ばれては困る人々なればこそ、
日本にはあんまり伝手はないらしく、

 “だからこそ、俺のような胡散臭い存在を、
  便利さ優先で使ってもいるんだろうしね。”

金払いの良さへ、あからさまにへいこらして見せることで、
信用は出来なくとも金さえあれば裏切らない、
要領のいい、狡猾なキツネだ…という把握を持っていただけた。
頭が良くて世渡り上手。
日本という、彼らには馴染みの薄い土壌での立ち回り方にも長けており。

『今時は誰もが携帯電話というツールを持っているし、
 年上だってだけで敬意を示すなんてとんでもない、
 それが政府の要人だとて、芸能人扱いで平気でカメラを向ける世情ですからね。』

『都心でもいまだに外国人は珍しがられてますよ。
 もしかしてスターかも、いやいや、お忍びの外国要人かもなんて。』

そんな目立つ人たちが、揉め事や殺傷沙汰だなんて。
映像をマスコミへ売れるとばかり、
逃げ出すどころか寄って来かねないのですからね。
だから、滅多なことはなさらぬように…と。
遠回しではあれ、クギを刺しておいたのも一応は功を奏しているようで。

 “あとは…勘兵衛様がどう食いついてくれるか、だよなぁ。”

悲壮なお顔をしてはいるが、幼いながらも威容は崩さぬ。
そんな健気な少女を監視しつつ、
胸中にて、微妙な算段を転がしておいでの誰か様にも。

  まさかまさか

突破口を貫いてくださったお嬢様がたが、まだまだ食い下がって来ようとは、
思っても無かったようでございまして……。






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  *これで一応の地ならしは終了したと思われます。(そんな他人事みたいに…)
   それにつけましても…。
   ワンピのお部屋で体感中なことなんですが、
   主人公達がどんどんと強くなってくもんだから、
   それが大変だと思うような事件とか相手とか
   考えるのが段々大変になってく苦痛。
   まさかこの、女子高生のお話でも感じるようになろうとは…。


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